ますます月日が経つのが早くなってきている。もう年賀状の季節だ。ということはつまり、このペーの季節だ。振り返ると今年はわが洋書人生において史上最大の変化が起きた年だった。ペーパーバック読みからkindle読みになったのだ。2013年シーズンの読書はペーパーバック2冊にkindleが11冊である。今後ペーパーバックを買うことはほとんどないと思われる。だから「このペーパーバックがすごい2013」ではなく「このkindle洋書がすごい2013」にすべきか。ペーパーバックもkindleも媒体のことでありコンテンツそのものではない。ハードカバーで読んでも、あるいは翻訳したものを文庫で読んでも面白いものは面白いはずだ。すごい本質は何かと言えばstoryだ。作者が作り出した話である。英語か日本語か、入れ物がペーパーバックかkindleかはそう本質的なものではないのだ。では自分がえり好みをして読んでいるのは何かといえば、ミステリーや冒険小説だ。この辺りのジャンル分けも議論が多くあり、スパイものとかサスペンスとか推理小説とかエンターテインメントとかどういうラベルがふさわしいかということになる。思い起こせば「このミステリーがすごい」が出た最初のころにそういう議論が掲載されていたような記憶がある。
今シーズン読んだ13作品を思い返してみるとやはり、主人公が未知の状況に対してどのようにして対処して生き延びてゆくかという点をどきどきはらはらしながら読み進んでゆくのが自分は好きなのだと思う。そいういう意味では自分が好む話は冒険小説といえるだろう。ミステリーというのはどうにも違和感が大だし、エンターテインメントといっても良いがちょっと広すぎ。というわけで「この冒険小説がすごい2013」ということにしたい。略して「この冒2013」だ(笑)。
さて改めて今シーズンのエントリー作品を眺めてみよう。まずは13作品というのが少ないことに気付く。2012年度は15作品、2011年度は16作品、2010年度が17作品と比べるとかなり少ない。理由は単純。#10シャーロックホームズが長すぎたからである。これだけでなんと5か月もかかったの。逆に言えばこれ以外の12作品を7か月で読んだのが多すぎるくらいだ。だがこれも理由は明らかで#8と#9が極端に短く、それぞれ数日で読み終えたからだ。こういう極端な長短が出たのはkindleのせいである。ペーパーバックなら100ページしかない薄すぎるものとか3000ページもある厚すぎるものは買わないが、kindleならページ数を気にせずにクリックしてしまうのだ。
1.Only Time Will Tell Jeffrey Archer pb
2.The Sins of the Father Jeffrey Archer pb
3.Point of Impact Stephen Hunter kd
4.Red Dragon Thomas Harris kd
5.Once A Spy Keith Thomson kd
6.Life of PI Yann Martel kd
7.Best Kept Secret Jeffrey Archer kd
8.The old man and the sea Ernest Hemingway kd
9.A Textbook Case Jeffery Deaver kd
10.The Complete Sherlock Holmes Collection Arthur Conan Doyle kd
11.The great Gatsby F. Scott Fitzgerald kd
12.The Racketeer John Grisham kd
13.First Blood David Morrell kd
(※作者名の後のkdはkindle、pbはpaper backのこと)
まずは#1,#2,#7はジェフリーアーチャーのクリフトン3部作だ。2冊はペーパ-バックで、第三作はキンドルで読んだ。さすがのストーリーテラーで安心して読める作家だ。
#8,#11は古典的作品でキンドルの安売りのために読んだもの。#10もかな。これはこれでシャーロックホームズのすべての作品という途方もない量で、インパクトはあった。それから翻訳本で既読の古めの名作としては#3,#4,#13があげられるだろう。新しめの作品は#1,#2,#7の三部作のほかに#5,#6,#9#12が該当する。
さて、読後の記事と現在残っている記憶を頼りに再評価してベストを選ぶとこうなった。
1位 First Blood
2位 Red Dragon
3位 Point of Impact
4位 The Racketeer
ランボーの原作 First Bloodが自分の好みの冒険小説度でぶっちぎりのナンバーワンであることに疑いがない。ど真ん中の剛速球で三者連続三振で試合終了って感じだ。映画とは異なる部分もかなり目についたが、別に問題ない。映画も素晴らしいが原作もよかった。単純馬鹿でもいい、面白ければ。
トマスハリスのスリラーが2位。どこか悲しみを帯びた恐怖感と絶望感。なんでこんな暗く怖い作品を好んで読むのか。お化け屋敷のような怖いもの見たさなのか。恐ろしい話を読んで、でも自分は安全だもんねと安心したいのか。緩和を得たくて緊張を選ぶのか。
3位は銃器オタクにはたまらない一作。この良さは女には分からんだろう(などと言ってみた。笑)。しかし、単純馬鹿な作品ではなく、よく練られた作品で読み応えが超重量級だ。邦訳本「極大射程」もおすすめ。
4位はグリシャムが入った。彼の作品はどれも読みやすく面白い。こんなおいしい現役作家は他にいない。全部読むのでこれからも長生きしてたくさん書いてほしい。日本人としてコメがないと生きてゆけないのと同じレベルで自分にとってはグリシャムがないとダメなのだ。
お得だったで賞 The Complete Sherlock Holmes Collection
コナンドイルへの絶賛はもちろんとして、今回はシャーロックホームズ全作品をひとまとめにして99円で叩き売るという大暴挙をしたアマゾン社を表彰しときたい(著作権が切れたためにできたことだが)。
審査員奨励賞 Jeffrey Archer クリフトン三部作
グリシャムに負けず劣らず読みやすく楽しめる現役作家アーチャーのクリフトン三部作には審査員奨励賞を進呈したい。ただ一言いうなら、三部作とはいってもあまりの「ぶつ切り」はご遠慮いただけたらと思う。それがなかったら入賞だった。
番外編
懐かしかったで賞 箱男 安部公房 文庫
hontoのポイントが余ったので期限切れになる前に窮余の策として購入したというある意味とても失礼な経緯で入手したもの。段ボール箱をかぶったまま野外で暮らすという行為も大いに冒険的なのだが、冒険小説とはやはりちょっと違うかな。高校生の時に読んだが彼の作品はおいおい全作読み直してみたい。授業が始まる前、誰もいない早朝の運動場を走った後、講堂の隅で汗を拭き拭き制服に着替えている時、始まった女子バスケ部の朝練の風景がなぜかよみがえった。とにかく懐かしかった。
★過去記事のご参考
このペーパーバックがすごい!2012
このペーパーバックがすごい!2011
このペーパーバックがすごい!2010
この本が面白かった2009
この本が面白かった2008
この本が面白かった2006
このミステリーがすごかった!2005
はるきょん読書回想記
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